歩いている人がいる。

赤いジャケットに白のスキニー、黒いブーツの細い男。

黒くて大きなハットを目深にかぶって隠れている口元はニヤリと笑っている気がした。

 

どこに行くんだと尋ねてみても声が届いているんだかわからない。

 

叫ぶ私の声だけが白い世界にこだまする。

 

おーいおーい。よよいのよーい。

私もわけがわからない。

 

男は私の事なんかまるで気にせず歩いて行く。

白い白い果てのない世界。

足跡も残さず。

 

疲れて声を出すのをやめると、なんの音もしなくなる。

ただ男は歩いていた。

歩いているのだと思った。

 

音もしない何もない白い世界では、彼が歩いている事を証明してくれるものは何もなかった。

 

だから、私だけは信じようと思った。

 

彼は、歩いているのだ。